February 17, 2010

去年の秋から今年の春にかけて、北米を中心に、蜜蜂が巣に戻ってこずに行方不明になるという現象が広がっていたそうだが、最近はその話も聞かなくなった。解決したのならいいけれど、一体、どうなったのだろう。そもそも、解決できるような問題なのだろうか。

家の冷蔵庫の上に手つかずの蜂蜜の瓶がたくさん並んでいる。フィンランド、ニュージーランド、白馬、ハワイ、葉山、フランス、タイ、湯布院。原産地はさまざまである。旅先で、食料品店や朝市などを見かけると、まずはいちばんに蜂蜜を探してしまう。専門店にでも出くわそうものなら、どれにしようか目移りがして大変だ。決められないからいくつかまとめて買うが、自分では食べ切れないのはわかっているので、いくつかおみやげにまわす。そうやって知り合いに渡しているうち、忘れた頃にお返しのおみやげで蜂蜜をいただくことも多くなった。どんどんたまって、食べるスピードが追いつかない。これを食べ切ったら次はあれを開けてみようと、なんとなく順番を考えてあったりするけれど、いちばん贔屓にしているものを買うチャンスがあれば、迷わずまとめて手に入れてそればかり食べるから、列の長さは一向に短くならない。

先日、サンフランシスコの「ホールフーズ」で蜂蜜を買った。それは、ハワイ島のホノカアという小さな町で作られたものだ。ホノカアはヒロから車で西に一時間くらい走ったところにある。商店がぽつりぽつりと並ぶメインストリートは、端から端まで歩いても15分くらいしかかからないだろう。二度か三度、ホノカアをぶらついたことがあるのに、最初にこのホノカア産の蜂蜜を見つけた場所は、実は葉山である。知り合いのカフェに置いてあったのだ。ラベルを見るとホノカアと書いてあったので、懐かしくて買ってみたら、これがめっぽう美味かった。その後、ヒロに行く機会があったから食料品店で探したが見つからず、帰りに寄ったホノルルの「ダウントゥアース」というオーガニック系のスーパーマーケットでようやく手に入れた。ということは、きっと「ホールフーズ」にもあるに違いないと踏んで、次にロサンゼルスに行ったときに覗いてみると、案の定、棚に並んでいる。それからは、西海岸に行くたびに買って帰るようになった。冷蔵庫の上の蜂蜜の列が短くならない最大の原因はこれである。

さて、サンフランシスコで買った蜂蜜の話の続きに戻ろう。この際だからと四つ買った。ところが何を勘違いしたのか、それを機内持ち込み荷物の中に入れてしまったのだ。空港の荷物検査でいきなり止められた。どうして止められたのかわからなかった。検査官がトートバッグからごそごそと取り出したのは、Tシャツにくるんだ蜂蜜の瓶だ。それでようやく、蜂蜜も液体だということに気づいた。前の日の夜、荷造りをするとき、カミさんの化粧品の内容量を確認しては、オーバーするものはトランクに、小さいものはビニール袋に入れてバッグにと、喧々諤々、丁寧に準備したのに、蜂蜜に関してはぼんやりしてしまっていた。チェックインカウンターで預けたトランクを戻してもらってそっちに入れろと言われたが、いまからそんな面倒なことをする気力も時間もない。これは本当に美味い蜂蜜だから廃棄せずに必ず食べてくれと念を押して、検査官に渡した。彼女は試してみただろうか。そして、あの複雑な甘さの虜になっているだろうか。くどくどと書くのは、惜しくて惜しくてたまらなかったからだ。キアウェの花だけで作るというホノカアの白い蜂蜜が、あの後、どうなったのか気になって仕方がない。

◎ミュージック・ダイアリー1月『SWEETS』(ユニバーサル・インターナショナル/2007年12月発売)より。