鹿児島と博多を結ぶ九州新幹線は来年の春に全線開通するのだそうだ。鹿児島中央駅を出発して、ようやく車内の空気に馴染んだと思ったらもう新八代駅で、あわててリレーつばめに乗り換えるということがなくなるのは嬉しい。鳥栖を過ぎると列車はだんだんとスピードを落とすから、博多駅が近いことはうたた寝していてもわかる。ふと目を覚まして窓の外を見たときに、ちょうどどこかの駅を通り過ぎるところで、駅舎の向こうの小さなロータリーの一角に「小林カレー」という看板を掲げた店があることに気づいたのは、たぶん一昨年の冬だった。小林カレーという文字が、まるで半紙に墨で書いたような律義なものだったので、強烈に目に焼き付いた。同時に、九州に出かける直前に買ったばかりの料理本のタイトルが、もしかしたらこの看板から取ったのかもしれないという考えも頭をかすめる。はっと我に返ったとき、列車は駅を通過し終えてしまっていて、そこが何というところなのか知る術はすでになくなっていた。その後、「小林カレー」の看板を見かける機会が二度あったけれど、列車のスピードが速かったり、停車中の列車の陰になったりで、駅の名前は確かめられないままだった。そして今回もまた見逃した。次にリレーつばめで博多入りするのは一体いつになるのかと思いながら、そんな話をぼそりと呟いてみたら、親切にも教えてくれる人がひとりならずいて、「小林カレー」があるのはJR二日市駅だとわかった。とはいえこの先、二日市に行く機会などあるだろうか。
翌日、友人たちと絣工房を見学するために久留米に向かった。正午近くに集合したのは、途中で昼飯を食べていこうという算段だったらしく、どこに寄るつもりなのかを尋ねると、二日市の「小林カレー」だと友人が言う。自分には、いつか行ってみたいと思い焦がれるてもきっと行けないに違いない店がいくつもあって、「小林カレー」もそのリストの中の一軒だった。だから驚いた。そして、こんなにあっさりと夢がかなってよいものかと、少しずつ気持ちが上ずってくる。クルマはすぐに二日市駅前に到着。列車の窓から何度も眺めた建物は、実際にその前に立ってみると意外に小さかった。件の看板を見上げる。筆の運びがわかるような生々しい文字だ。店の中に入りキーマカレーの中辛に野菜のトッピングと注文して水を飲む。やがて運ばれてきたのはスープカレーで、何口か食べるうちにバランスの良い香辛料が気持ちを落ち着かせてくれた。美味い。聞けば、西鉄太宰府駅からも近いそうだ。友人が住む大橋からひとりで来られる。いや、それどころか、帰りに「お石茶屋」で梅が枝餅も食べられるではないか。思い焦がれるだけの店は、こうして時間があれば寄りたい店のリストに、目出度く移し替えられることとなった。
◎小林カレー 福岡県筑紫野市二日市中央2-6-11